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  ■ Prologue

 少し古臭い香りのする車内。
 年代を感じさせる色のはげた椅子に、俺は腰を落ち着ける。
 規則正しく鳴り響くレールの音が、背もたれに背中を預け目を閉じる俺の耳に聞こえてくる。
 どこか懐かしいその響きが、嫌なことをすべて忘れさせてくれるように感じた。

 いっそ、このまま。何もかも忘れられれば。

 ふと、そんなことを考える。
 だが、それは到底かなえられることのない願いだった。


「ごめん、付き合えない」

 俺は、自分の耳を疑った。
 だが、その言葉は真実で。覆ることのない事実であった。

 簡単なことだ。
 俺は振られた。
 それだけだった。

 4月のはじめに席が隣になったことをきっかけに、話すようになって。
 あまり女の子と話すような生活をしてこなかった俺にとって、それは、人生が変わるほどの一大事だった。
 毎日たわいのない会話をして、一緒に昼飯を食べて、途中まで一緒に下校して。
 傍から見ても付き合っているとしか思えない関係だったし、事実、俺もそう思っていた。

 いつまでもこのままではいけない。
 夏休みを目前に控えたこの時期に、俺は、一大決心をする。
 告白。

 だが、幻想はもろくも打ち砕かれた。


 最悪の夏休みを迎えたところへ、突然の訃報。
 かたくなに田舎暮らしをしていたじいちゃんが、亡くなったのだ。

 今頃は、もっと有意義な夏休みを過ごしているはずだった。
 だが、あのショックが。俺の胸をきつく締め付ける。
 このままここに残っていても辛いだけだ。それならば。

 そして、今、俺は。
 じいちゃんの葬式に参列するために、この列車に乗っている。

 列車の揺れに身を任せていると、急速に眠気が襲ってくる。
 眠れば忘れられるかもしれない。
 眠っている間だけは、すべてのわだかまりが消えるかもしれない。

 俺は、その睡魔に、自分の意識を預ける。

 夏が、始まる。

- return -